バイバイ、ブルーバード。
原始、インターネットは別の大陸であった。メイフラワー号に乗って日常世界から脱した人々だけがたどり着ける新世界であった。そこは未開の地だから酷く暮らし難い。だが志を同じくする人々が作る世界は狭いながらもまことに居心地が良く、程の好い自治が保たれたある種の楽園であった。楽園の魅力は人々を引きつけた。メイフラワー号に乗船する人の数は日を追うごとに増えてついには輸送力の限界を超えてしまい、為に大陸の間には橋が架けられた。新世界に渡る人々は無尽蔵に膨れ上がりやがて橋でも追いつかなくなり大陸の間が埋め立てられた。二つの大陸はとうとう陸続きになった。それから幾星霜、新世界は忌まわしき日常の世界に完全に侵食された。楽園は跡形もなく、夢のように消えてしまった。だがもう我々には乗船すべきメイフラワー号はなく、嘗てその船が運んでくれた新大陸もない。そんな我々の乗船をいま受け入れてくれるのは一隻の巨船のみ。その船の名はタイタニック——。
